三度の飯と本が好き。

食べることと本を読むのが好きな私の書評ブログです

「消滅世界/村田沙耶香著」を読んで、家族を作る意味や子孫を残す意味を考えさせられた。

コンビニ人間」で芥川賞を受賞した村田沙耶香さんの描くディストピア小説が大好きです。未読だった「消滅世界」を図書館で発見し、早速読んでみたら面白くて止まらない!

ここ3日間は村田ワールドの住人になっておりました。


消滅世界 (河出文庫) [ 村田 沙耶香 ]

 

 

夫婦間での性行為が「近親相姦」という禁忌になっている世界

 

主人公の雨音は父と母がセックスをして産まれた。今いる私たちの世界ならなんの不思議もない、「自然」なことだ。

しかし、小説の中の世界は違う。戦争で男性が減ったことで人工授精の研究が進んだことで、人々は皆人工授精で妊娠・出産をしているのだ。

 

「昔」のように自然妊娠する人はほとんどいない、むしろそれは近親相姦と言われタブーとなっている。さらに女性は初潮が来たら病院で避妊器具を挿入される。

 

人工授精で子供を産むシステムが確立されたことで、結婚をせずに精子バンクを利用して子供を生み育てる女性もいる。

この世界では、家族という集団を作るというのが希薄になりつつある。個人単位で生きる人が増えているというのだ。

 

主人公はバツイチで、初婚時に夫に近親相姦されそうになったことで離婚。2人目の夫とはうまくやっている。お互いに恋愛体質で、よそに恋人がいる。

そう、この世界では恋人と夫婦というのは全くの別物となっている。恋人と恋愛をして、配偶者とは家族を作る。不倫が当たり前、それが常識になっているところも面白い。恋人とも身体を重ね合わせる人はほとんどおらず、プラトニックな恋愛をしているようだ。

 

 

古い慣習の種が燻っている主人公の葛藤

 

人々がセックスをしなくなっている中、雨音は恋人とするのだ。この世界では「ヒト」と「キャラ」と恋をすることができる。

 

キャラというのはいわゆる三次元キャラクターで、それらにガチ恋しているのだ。そういう用にデザインされているようで、制欲もキャラを使って処理する。雨音はそれをセックスというが、友人らはそれはマスターベーションだと指摘するのであった。そして雨音はキャラではなくヒトともする。もう、なんかすごい(笑)

 

それは母が幼い頃から呪いのようにかけてきた「昔の子作り」を知っているから。そういう本や映画を見せられいたというのだ。

 

古い常識に囚われたままの母に反発するように、システムに溶け込もうとする雨音。でも、そのシステムに違和感を感じていることに薄々気づいては苦しんでいる。

 

こういう親からかけられる呪いは本当に厄介で、幼いころに植え付けられた概念って簡単には覆せないんですよね。雨音がすごく気の毒に感じました。社会に溶け込もうとしているのに、上手く溶け込めない苦しさが伝わってきました。

 

 

どうして子供を作るのか?

 

なんか、産まないなら産まないで、手持ち無沙汰じゃない?会社にやりがいがないなら、一つライフワークっぽいことがしたかったの。(P.77)

 

これは雨音の職場の子持ちの先輩の発言。すごく共感してしまった。こんな自分の都合のようなことをいうのは非難されるのではないかと思っていたことを、先輩はさらっと言っていた。

 

私も今は結婚して子供を希望しているが、元々は子供を作ることに否定的だった。子育ては大変だし、そもそも興味がなかった。でも、結婚して考えが変わった。夫と自分の血を分けた子供に会ってみたいと思ったし、母親という役割をしてみたくなったのだ。夫が転勤族で、正社員になるのはハードルが高い。パートで働いていたが、独身時代の頃とは違って熱中できなかった。だから、熱中できることを望んでいたのかもしれない。こんなことを言ったら「自己満足で子供を作るな」と言われそうだが、他のお母さんたちも実はそう思っているのかな?と、この作品を読んで思った。まぁ、でも声を大にしていう勇気はありませんね…。

 

何でだかわかんないんですけど、とにかく欲しいんです。自分の血を分けた子供がいたら、すっごく愛せそうな気がするんですよね。私、基本的に人間好きじゃないんですけど、その子だけは可愛いんだろうなーって。だから、自分の子供と出会いたいんです。産まないと出会えないじゃないですか。だから産みたいんです。(P142)

 

これは雨音の後輩のアミちゃんの発言。結婚はしたくないけど、子供が欲しいという彼女。この気持ちもよく分かる。他人の子供と自分の子供は別なんですよね。血が繋がっているだけで無条件に愛せそうな気がする。とはいえ虐待する親もいるし実際はどうなるのか分かりませんが、自分の子供が欲しいという人はこういう意見の人が多いのではないでしょうか。

 

 

「家族」という安心できる場所

 

「家族のことを考えてると安心するよね。自分にはそれがあるんだって思うと、外で多少のことがあっても平気だなぁ」(P85)

 

村田沙耶香さんの小説でこんな、ほっこりした言葉を読めるとは…!←

職場や友人関係で落ち込んだ時も、家に帰ったら家族が「おかえり」と言ってくれる安心感。それだけで安らぎますよね。イラつくこともありますが、総じていうと家族っていいなと思います。自分の絶対的な味方が、そこにいるから。

 

システムの中に自分たちがきちんと組み込まれていると思うとほっとする。やっぱり家族システムは、便利だから利用している、というだけではなく、そこになにか確固たる絆を生むものなのだ。(P86)

 

時代は変化し、正常も変化していく。

時代は変化してるの。正常も変化してるの。昔の正常を引きずることは、発狂なのよ(P140)

 

コロナが落ち着き、マスクの着脱も自由になってきた。これまで正常だったマスクをつける行為が異常なものになっていくのかもしれない。個人的にはマスクはつけたい人はつければ良いと思う。なぜみんな一斉にマスクを外したがるのか謎である。こういう時代の変化で常識がどんどん変わっていく。私はこの先の変化に溶け込めるだろうか…と、読んでいて考え込んでしまった。

 

話は戻って雨音たち夫婦は恋人との破局がきっかけで、恋愛とセックスを求める自分自身に疲れ果てていた。(特に夫は憔悴しきっていた)そこで恋のない世界である千葉県の実験都市に「駆け落ち」することを決意する。

 

 

「住人みんなで子供を育てる」という楽園

 

実験都市は楽園(エデン)システムと呼ばれ、夫婦などの婚姻関係は認められていない。雨音たちは婚姻関係を解消し、移住した。

人工授精は抽選で決まり、選ばれたものだけが12月24日に人工授精ができる。産んだ子供はセンターに預けられ、「子供ちゃん」と呼ばれて住民みんなが「おかあさん」になる。

 

昭和の時代は近所みんなで子供を見守っていた、なんて聞くがエデンシステムはそれの進化版という所だろうか。自分の子供を奪われる辛さはあるが、育児ノイローゼになることはない。良い面も悪い面もあるなと思った。

 

実験都市外でも初潮を迎えたら避妊器具を装着させられる。これも望まない妊娠をしないためには良いのではと思ったりもする。

 

最初はエデンシステムに懐疑的だった雨音も、段々とシステムに洗脳されていく。このグラデーションがお見事だった。そして夫との関係も変化していく…。

 

さらに自分を呪った母親との関係にも終止符を打とうとするのだが、その方法がなんともいえない。雨音は結局、性欲を満たすためにヒトを利用とする。呪いは簡単にとけないし、どんなに社会のシステムが変わろうが人の性癖は変わらないのだなと思いました。

 

いやぁ、面白かった!!殺人出産や生命式と通じるものがあって、かなり好みの作品でした。

 

生命式 (河出文庫) [ 村田 沙耶香 ]

殺人出産 (講談社文庫) [ 村田 沙耶香 ]

 

 

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