三度の飯と本が好き。

食べることと本を読むのが好きな私の書評ブログです

世にも奇妙な短編集【生命式】を読んで、母の死に直面した自分を思い出す。

お葬式には参列したことがあるだろうか。私は結構早くから参列した記憶がある。

 

かすかに覚えているのは、母方の祖父のお葬式。多分、小学1年生とかそのくらいの頃だった。

 

その後、中学生の頃に母方の祖母が亡くなった。ちょうどクリスマスの時期だったけど、バタバタしていてクリスマスどころではなかった記憶がある。親戚の誰かが気を利かせてケーキを買ってきてくれたのをかすかに覚えている。

 

祖母は安らかに眠っていた。本当に眠っているだけのようで、死んでいるようには見えなかった。祖父の時は記憶が曖昧だったので、祖母の入っている棺を見て、はじめて「死」を肌で感じた出来事だった。

 

そして数十年後、今度は母が亡くなった。社会人2年目の頃で忙しくしていた頃だった。突然の訃報に気が動転し、父に「明日、出張がある」と言ったのを強烈に覚えている。もちろん、出張には行かなかった。

 

祖父母の死とは違い、母の死は早すぎた。どう受け止めて良いのか分からず、とにかく泣いた。そして、とにかく食べていたのだ。

 

当時の彼氏(今の夫)は私が気に病んでいないか心配していたが、母が亡くなって初めて会った日に私は「ステーキが食べたい」と言った。ステーキを完食した私に、彼は「すげぇ食うじゃん」と呆れていた。

 

母の死を経験したことで、「若くても死ぬ時は死ぬ」のだと実感したからなのか、あるいは本能的に「食べないと死ぬ」と思ったのかもしれない。

 

村田沙耶香さんの「生命式」を読んで、当時の自分のことを思い出した。母の死に直面したことで私は「生きよう」と思ったのだなと思う。

 

死んだら美味しく食べてもらう世界

 


生命式 (河出文庫) [ 村田 沙耶香 ]

 

「生命式」は新しいお葬式のスタイル。人口減少が深刻になった世界、亡くなった人間を食べて知り合った男女が交尾をして受精する。

とにかく人口を増やすために人々は交尾をするのだ。快楽のためのセックスというものは消え去り、かなり動物的になっている。

 

うまいものくって、楽しく生きて、死んだら美味しく食べてもらって、新しい命を生む活力になる。悪くない人生だって思うんだよね。

 

この会話文を読んで、なるほどなぁ…と納得してしまった。人肉を食べるなんて気持ち悪い…とは思うけど、新しい命を育む糧となれるなら本望かもしれない。なんて思ってしまった。

 

生命式に参列する女性達が「中尾さん、美味しいかなぁ」と言う会話を自然にするのも奇妙なんだけど、なんだか笑えてきてしまう。さすが村田沙耶香…!村田ワールド全開の本作、すっかり没入してしまいました。

 

 

常識って案外、不確かなものなのかもしれない

 

「生命式」以外にも亡くなった人間の一部を加工して服を作ったり指輪を作ったりするのが当たり前となり、なんならそれが高級品となっている「素敵な素材」も面白かった。

 

今の常識に浸されている私にとっては人肉を食べることも人毛の服を着ることも気持ち悪いし、ありえないと思ってしまうが作中の人たちはそれが当たり前となって暮らしている。逆に嫌悪を抱いている人間の方が異常者だと思われる世界なのだ。

 

この2篇を読んで、自分の信じていた常識がある日突然、異常なことに変わってしまったらと思うとちょっと怖い。常識は簡単に流され、塗り替えられていくものなのかもしれない。

 

今やマスクをして外出するのが当たり前になった世の中で、マスク無しで外出するのは勇気のいることだ。(少なくとも私はそう)私たちが気づかないだけで少しずつ、常識が塗り替えられているのかもしれない。

 

 

 

 

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