三度の飯と本が好き。

食べることと本を読むのが好きな私の書評ブログです

「消滅世界/村田沙耶香著」を読んで、家族を作る意味や子孫を残す意味を考えさせられた。

コンビニ人間」で芥川賞を受賞した村田沙耶香さんの描くディストピア小説が大好きです。未読だった「消滅世界」を図書館で発見し、早速読んでみたら面白くて止まらない!

ここ3日間は村田ワールドの住人になっておりました。


消滅世界 (河出文庫) [ 村田 沙耶香 ]

 

 

夫婦間での性行為が「近親相姦」という禁忌になっている世界

 

主人公の雨音は父と母がセックスをして産まれた。今いる私たちの世界ならなんの不思議もない、「自然」なことだ。

しかし、小説の中の世界は違う。戦争で男性が減ったことで人工授精の研究が進んだことで、人々は皆人工授精で妊娠・出産をしているのだ。

 

「昔」のように自然妊娠する人はほとんどいない、むしろそれは近親相姦と言われタブーとなっている。さらに女性は初潮が来たら病院で避妊器具を挿入される。

 

人工授精で子供を産むシステムが確立されたことで、結婚をせずに精子バンクを利用して子供を生み育てる女性もいる。

この世界では、家族という集団を作るというのが希薄になりつつある。個人単位で生きる人が増えているというのだ。

 

主人公はバツイチで、初婚時に夫に近親相姦されそうになったことで離婚。2人目の夫とはうまくやっている。お互いに恋愛体質で、よそに恋人がいる。

そう、この世界では恋人と夫婦というのは全くの別物となっている。恋人と恋愛をして、配偶者とは家族を作る。不倫が当たり前、それが常識になっているところも面白い。恋人とも身体を重ね合わせる人はほとんどおらず、プラトニックな恋愛をしているようだ。

 

 

古い慣習の種が燻っている主人公の葛藤

 

人々がセックスをしなくなっている中、雨音は恋人とするのだ。この世界では「ヒト」と「キャラ」と恋をすることができる。

 

キャラというのはいわゆる三次元キャラクターで、それらにガチ恋しているのだ。そういう用にデザインされているようで、制欲もキャラを使って処理する。雨音はそれをセックスというが、友人らはそれはマスターベーションだと指摘するのであった。そして雨音はキャラではなくヒトともする。もう、なんかすごい(笑)

 

それは母が幼い頃から呪いのようにかけてきた「昔の子作り」を知っているから。そういう本や映画を見せられいたというのだ。

 

古い常識に囚われたままの母に反発するように、システムに溶け込もうとする雨音。でも、そのシステムに違和感を感じていることに薄々気づいては苦しんでいる。

 

こういう親からかけられる呪いは本当に厄介で、幼いころに植え付けられた概念って簡単には覆せないんですよね。雨音がすごく気の毒に感じました。社会に溶け込もうとしているのに、上手く溶け込めない苦しさが伝わってきました。

 

 

どうして子供を作るのか?

 

なんか、産まないなら産まないで、手持ち無沙汰じゃない?会社にやりがいがないなら、一つライフワークっぽいことがしたかったの。(P.77)

 

これは雨音の職場の子持ちの先輩の発言。すごく共感してしまった。こんな自分の都合のようなことをいうのは非難されるのではないかと思っていたことを、先輩はさらっと言っていた。

 

私も今は結婚して子供を希望しているが、元々は子供を作ることに否定的だった。子育ては大変だし、そもそも興味がなかった。でも、結婚して考えが変わった。夫と自分の血を分けた子供に会ってみたいと思ったし、母親という役割をしてみたくなったのだ。夫が転勤族で、正社員になるのはハードルが高い。パートで働いていたが、独身時代の頃とは違って熱中できなかった。だから、熱中できることを望んでいたのかもしれない。こんなことを言ったら「自己満足で子供を作るな」と言われそうだが、他のお母さんたちも実はそう思っているのかな?と、この作品を読んで思った。まぁ、でも声を大にしていう勇気はありませんね…。

 

何でだかわかんないんですけど、とにかく欲しいんです。自分の血を分けた子供がいたら、すっごく愛せそうな気がするんですよね。私、基本的に人間好きじゃないんですけど、その子だけは可愛いんだろうなーって。だから、自分の子供と出会いたいんです。産まないと出会えないじゃないですか。だから産みたいんです。(P142)

 

これは雨音の後輩のアミちゃんの発言。結婚はしたくないけど、子供が欲しいという彼女。この気持ちもよく分かる。他人の子供と自分の子供は別なんですよね。血が繋がっているだけで無条件に愛せそうな気がする。とはいえ虐待する親もいるし実際はどうなるのか分かりませんが、自分の子供が欲しいという人はこういう意見の人が多いのではないでしょうか。

 

 

「家族」という安心できる場所

 

「家族のことを考えてると安心するよね。自分にはそれがあるんだって思うと、外で多少のことがあっても平気だなぁ」(P85)

 

村田沙耶香さんの小説でこんな、ほっこりした言葉を読めるとは…!←

職場や友人関係で落ち込んだ時も、家に帰ったら家族が「おかえり」と言ってくれる安心感。それだけで安らぎますよね。イラつくこともありますが、総じていうと家族っていいなと思います。自分の絶対的な味方が、そこにいるから。

 

システムの中に自分たちがきちんと組み込まれていると思うとほっとする。やっぱり家族システムは、便利だから利用している、というだけではなく、そこになにか確固たる絆を生むものなのだ。(P86)

 

時代は変化し、正常も変化していく。

時代は変化してるの。正常も変化してるの。昔の正常を引きずることは、発狂なのよ(P140)

 

コロナが落ち着き、マスクの着脱も自由になってきた。これまで正常だったマスクをつける行為が異常なものになっていくのかもしれない。個人的にはマスクはつけたい人はつければ良いと思う。なぜみんな一斉にマスクを外したがるのか謎である。こういう時代の変化で常識がどんどん変わっていく。私はこの先の変化に溶け込めるだろうか…と、読んでいて考え込んでしまった。

 

話は戻って雨音たち夫婦は恋人との破局がきっかけで、恋愛とセックスを求める自分自身に疲れ果てていた。(特に夫は憔悴しきっていた)そこで恋のない世界である千葉県の実験都市に「駆け落ち」することを決意する。

 

 

「住人みんなで子供を育てる」という楽園

 

実験都市は楽園(エデン)システムと呼ばれ、夫婦などの婚姻関係は認められていない。雨音たちは婚姻関係を解消し、移住した。

人工授精は抽選で決まり、選ばれたものだけが12月24日に人工授精ができる。産んだ子供はセンターに預けられ、「子供ちゃん」と呼ばれて住民みんなが「おかあさん」になる。

 

昭和の時代は近所みんなで子供を見守っていた、なんて聞くがエデンシステムはそれの進化版という所だろうか。自分の子供を奪われる辛さはあるが、育児ノイローゼになることはない。良い面も悪い面もあるなと思った。

 

実験都市外でも初潮を迎えたら避妊器具を装着させられる。これも望まない妊娠をしないためには良いのではと思ったりもする。

 

最初はエデンシステムに懐疑的だった雨音も、段々とシステムに洗脳されていく。このグラデーションがお見事だった。そして夫との関係も変化していく…。

 

さらに自分を呪った母親との関係にも終止符を打とうとするのだが、その方法がなんともいえない。雨音は結局、性欲を満たすためにヒトを利用とする。呪いは簡単にとけないし、どんなに社会のシステムが変わろうが人の性癖は変わらないのだなと思いました。

 

いやぁ、面白かった!!殺人出産や生命式と通じるものがあって、かなり好みの作品でした。

 

生命式 (河出文庫) [ 村田 沙耶香 ]

殺人出産 (講談社文庫) [ 村田 沙耶香 ]

 

 

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ディズニーキャストって本当に人間なのか?と思ったことがある人へ|ディズニーキャストざわざわ日記

ディズニーアニメを観て育った私としては夢の国はアニメの世界に入り込める場所で、散歩するだけでも楽しい。ディズニーピクサーが好きなので、東京ディズニーシーにあるトイストーリーマニアのスタンバイエリアに初めて入った時は、大興奮だった。自分がおもちゃになってアンディの部屋にいるような感覚になれるのだ。

 

大人になってから夢の国に行くと、キャストさんの対応には本当に神がかっていると感じる。アルバイトで接客をいくつか経験したが、嫌味なお客さんは必ずいる。私は顔にすぐ出るタイプなので、嫌な客にはブスっとする。書店で働いていた時には「鈍臭えな!」と暴言を吐かれたこともある。本が好きだから書店で働くのは夢だったが、また働きたいか?と言われたら「いいえ」と答えると思う。“好き”と“働きたい”は、必ずしもイコールではないのだ。

 

ディズニーキャストさんはブスッとしている人を見たことがない。炎天下でも極寒でも、キャストさんは常に笑顔だ。マジで凄いと思う…。本当に人間ですか?と問いたくなってしまう。

 

でも「ディズニーキャスト ざわざわ日記」を読んで、キャストさんも普通の人間なんだ!と安心したし、共感する点もあった。

 


ディズニーキャストざわざわ日記 (日記シリーズ) [ 笠原 一郎 ]

 

この作品のジャンル分けは難しい。読む前はエッセイだと思ったけど、読み終わった後はビジネス書だと思った。

 

ディズニーキャストにまつわる心温まるエピソードばかりではなく、厳しい現実がそこにはあることを著者は吐露している。

 

“夢の国”で働くのは楽しいし、ゲストにハピネスを提供することは働きがいがあって素晴らしい。しかし、一方で非正規雇用のアルバイトのため、不安定な立場であり、低収入ゆえ、計画的な将来像を描くことは難しい。

 

著者はディズニーリゾートのオフィシャルスポンサーでもあるキリンビール(株)の元社員。早期退職をしてオリエンタルランドで第二の人生を歩むことを決めた。著者はきっと老後資金には困っていないのだろう。いわゆるFIREをしている状態で、経済的に余裕のある人が働くのならオリエンタルランドも選択肢に入るだろう。

 

でも、実際にはそういう人ばかりではなく働き盛りで子育て世代のキャストもいる。ダブルワークをしているキャストもいるとのことだ。

 

そこまでしてキャストとしてして働くモチベーションが何なのだろう。決して良いとは言えない労働条件なのに。本書を読み進めていくうちに、キャストの退職は日常茶飯事とのことだ。それでも途絶えることなく入社してくるのは、夢の国で働きたいと思うキャスト志願者が大勢いるのだろう。これも夢の国の魔法なのだろうか。

 

それから驚いたことに、バースデーシールにはキャラクターのイラストを描いてはいけない決まりらしい。詳しい理由は本書を読んでもらいたいのだが、これにはびっくりした。

 

私は以前、キャストさんにバースデーシールをお願いしたら大好きなリトルグリーンメンを描いてくれたことがある。首にぶら下げていたコインケースを見て気を利かせてくれた。違う年では「好きなキャラクターはいますか?」と聞かれたこともある。可愛いイラスト付きのシールは今でも大切に取ってある。それを見るたびに楽しかった様子が一瞬で思い出せる宝物だ。私が死んだら絶対に棺桶に入れて欲しい。今はそれがないのかぁと思うと寂しい。

 

感染症が流行ってからディズニーランドには一回も行っていない。最後に行ったのは2018年のディズニーランドで、ハロウィンの時期だった。本書を読んでいたら久しぶりに行きたくなってきた。

 

 

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世にも奇妙な短編集【生命式】を読んで、母の死に直面した自分を思い出す。

お葬式には参列したことがあるだろうか。私は結構早くから参列した記憶がある。

 

かすかに覚えているのは、母方の祖父のお葬式。多分、小学1年生とかそのくらいの頃だった。

 

その後、中学生の頃に母方の祖母が亡くなった。ちょうどクリスマスの時期だったけど、バタバタしていてクリスマスどころではなかった記憶がある。親戚の誰かが気を利かせてケーキを買ってきてくれたのをかすかに覚えている。

 

祖母は安らかに眠っていた。本当に眠っているだけのようで、死んでいるようには見えなかった。祖父の時は記憶が曖昧だったので、祖母の入っている棺を見て、はじめて「死」を肌で感じた出来事だった。

 

そして数十年後、今度は母が亡くなった。社会人2年目の頃で忙しくしていた頃だった。突然の訃報に気が動転し、父に「明日、出張がある」と言ったのを強烈に覚えている。もちろん、出張には行かなかった。

 

祖父母の死とは違い、母の死は早すぎた。どう受け止めて良いのか分からず、とにかく泣いた。そして、とにかく食べていたのだ。

 

当時の彼氏(今の夫)は私が気に病んでいないか心配していたが、母が亡くなって初めて会った日に私は「ステーキが食べたい」と言った。ステーキを完食した私に、彼は「すげぇ食うじゃん」と呆れていた。

 

母の死を経験したことで、「若くても死ぬ時は死ぬ」のだと実感したからなのか、あるいは本能的に「食べないと死ぬ」と思ったのかもしれない。

 

村田沙耶香さんの「生命式」を読んで、当時の自分のことを思い出した。母の死に直面したことで私は「生きよう」と思ったのだなと思う。

 

死んだら美味しく食べてもらう世界

 


生命式 (河出文庫) [ 村田 沙耶香 ]

 

「生命式」は新しいお葬式のスタイル。人口減少が深刻になった世界、亡くなった人間を食べて知り合った男女が交尾をして受精する。

とにかく人口を増やすために人々は交尾をするのだ。快楽のためのセックスというものは消え去り、かなり動物的になっている。

 

うまいものくって、楽しく生きて、死んだら美味しく食べてもらって、新しい命を生む活力になる。悪くない人生だって思うんだよね。

 

この会話文を読んで、なるほどなぁ…と納得してしまった。人肉を食べるなんて気持ち悪い…とは思うけど、新しい命を育む糧となれるなら本望かもしれない。なんて思ってしまった。

 

生命式に参列する女性達が「中尾さん、美味しいかなぁ」と言う会話を自然にするのも奇妙なんだけど、なんだか笑えてきてしまう。さすが村田沙耶香…!村田ワールド全開の本作、すっかり没入してしまいました。

 

 

常識って案外、不確かなものなのかもしれない

 

「生命式」以外にも亡くなった人間の一部を加工して服を作ったり指輪を作ったりするのが当たり前となり、なんならそれが高級品となっている「素敵な素材」も面白かった。

 

今の常識に浸されている私にとっては人肉を食べることも人毛の服を着ることも気持ち悪いし、ありえないと思ってしまうが作中の人たちはそれが当たり前となって暮らしている。逆に嫌悪を抱いている人間の方が異常者だと思われる世界なのだ。

 

この2篇を読んで、自分の信じていた常識がある日突然、異常なことに変わってしまったらと思うとちょっと怖い。常識は簡単に流され、塗り替えられていくものなのかもしれない。

 

今やマスクをして外出するのが当たり前になった世の中で、マスク無しで外出するのは勇気のいることだ。(少なくとも私はそう)私たちが気づかないだけで少しずつ、常識が塗り替えられているのかもしれない。

 

 

 

 

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青春小説と侮るなかれ!主人公の復讐方法がとんでもなかった件|ひらいて(綿矢りさ)

子供の頃から青春小説はあまり読んでこなかったのですが、昨年映画化された本作の予告映像を観て興味津々。

 

 

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ふんわりしたイラストの表紙からは想像もつかないくらい、えぐい内容です。さすが綿矢りさ。爽やかな青春小説は書かないのね。

 


ひらいて(新潮文庫)【電子書籍】[ 綿矢りさ ]

 

 

あらすじ

華やかでモテる女子高生・愛が惹かれた相手は、哀しい眼をした地味男子。自分だけが彼の魅力に気づいているはずだったのに、手紙をやりとりする女の子がいたなんて。思い通りにならない恋にもがく愛は、予想外の行動に走るーー。身勝手にあたりをなぎ倒し、傷つけ、そして傷ついて。芥川賞受賞作『蹴りたい背中』以来、著者が久しぶりに高校生の青春と恋愛を瑞々しく描いた傑作小説。

 

 

クラスの中で目立って人気のある男子よりも、目立たない地味な男子を好きになる気持ちは分かる。「自分だけが知っている彼の魅力」という優越感に浸れるのよね。人気アイドルグループの中であまり目立たない子を応援したくなったり、セーラームーンでは主人公のうさぎちゃんじゃなくて、他の子を推したりする感覚と似ているような気がする。ちなみに私はセーラームーンの中では美奈子ちゃん推しでした。(美奈子ちゃんも人気あるけどね!)

 

主人公は目立つタイプの女の子で、冒頭から予備校が同じ男子生徒に告白されている様子からモテることも分かります。そんなヒエラルキー上位の女の子が下位の男子に恋をするというのは、少女漫画でもありそうな設定ですね。メガネを外したらびっくりするくらいイケメンだったり。

 

そんな地味で珍しい名前の「たとえ」に彼女がいることを知り、しかもその女の子はクラスで浮いている「美雪」でした。愛とたとえ、美雪は高校一年生の頃に同じクラス。美雪は美少女で最初はチヤホヤされていましたが、糖尿病を患っていたためインスリン注射をお昼の時間に教室でしていることがきっかけでクラスから浮いた存在になったのでした。そんな美雪とたとえが手紙の交換をしていた事実にショックを受けたものの、愛は美雪に近づき友達になります。

 

そして、たとえを傷つけるために美雪にした事…。これにはびっくり。愛もだけど美雪もどうかしてる…というのが率直な感想でした。

 

そもそも愛はたとえを本当に好きだったのか。アクセサリー感覚で自分のものにしたかっただけなのでは。たとえを想う美雪の気持ちと愛の気持ちは全く別物に感じました。

 

 

美雪と愛の違い

 

正直な人は、人を信じる強さを持っていることを教えてくれました。うそをつく人は、人を信じる強ささえ持っていないことも。

 

美雪は愛のとんでもない行動を受け入れてしまうほど、人を信じきれる。でも愛は人を信じきれないから嘘をついてしまう。美雪と愛は全く正反対のタイプですが、だから余計に嫉妬心が芽生えたのかもしれません。

 

家から近い大学に入り、料理教室とヨガ教室に通いつつ、塾講師か家庭教師のアルバイトをして、難関大のサークルに入会し、出会ったなかで一番将来性のある男の人と付き合い、大学を卒業したら、すぐに結婚する。周りの状況と自分の能力に合わせて水のように生きる。

 

愛の将来設計は間違っていないかもしれませんが、完全に他力本願ですよね。たとえは頭が良いから将来性がある、と思ったのでしょうか。このように打算ばかりする愛は、本当は美雪のように真っ直ぐ生きたいのではないか。自分に持っていないもの(たとえからの愛情、正直な性格、人を信じれること)を持っている美雪が羨ましいから、傷つけたのではないと思いました。

 

 

愛が人に心を開けるようになるまでの物語

 

タイトルの「ひらいて」には二つの意味があるのではないかと思いました。心をひらく、身体をひらく。愛は身体をひらけても心はひらけない。そんな彼女が心をひらくようになるまでの物語だと思いました。

 

作中に出てきた「サロメ」も読んでみたくなりました。読んだら理解が深まるかな?

 

 

 

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何者|内定出ないと焦るよね…就活していた頃を思い出す

朝井リョウ直木賞受賞作「何者」を読了しました。

 

大学生の就職活動がテーマ。これは就活を経験した人にはグサグサ刺さるのでは…。かくいう私もグサグサ刺さりました。

 

 

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この作品、ちょうど一年前にアマゾンプライムビデオで映画を観ました。映画が面白かったので原作を読んでみたいなぁと思っていて、やっと読めました( ^^ )

 


何者 (新潮文庫) [ 朝井 リョウ ]

 

 

あらすじ


就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたからーー。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて……。

 

 

「就活をみんなで頑張ろう」なんて幻想だと思う

 

私も経験がありますが、就活って最初はみんな一斉にスタートを切るので和気あいあいとするんですけど段々と格差が出てくるんですよね。

 

本作でも中々面接に進めない人と順調に面接まで行ける人で分かれます。そして知らない間に嫉妬してしまう。

 

内定が出たって聞いても素直に喜べなかったり、その会社の悪い噂を聞いてちょっと安心したり…。真剣に取り組んでるのに結果が出ないと、挫折を味わう人も多いのでは。

 

「何者」は就活が進んでいく中で焦りや嫉妬の感情が芽生えてくる過程がリアルに描かれていて、「分かるわー」と共感してしまいました。

 

 

登場人物のリアルな人間性も読みどころ

 

 

そして作中に出てくる登場人物たちが「こういう奴いるー!」という人たちばかりなのですよ。

 

特に光太郎と理香のような人。光太郎は要領が良くて人当たりも良い世渡り上手、理香はプライドが高いから自己主張が激しくて空気が読めないタイプ。

 

私の周りにも光太郎と理香は複数いました。就活って意外と成績の良い人が内定取れなかったり、逆にコミュ力高いけど勉強はあんまりって人に内定が出たりする。勉強ができる・できないよりは人間性を見られているような気がしました。

 

「何者」を読んだ後、私はこの中だと誰に近いのかなぁって考えたりするのも面白いです。

 

私はどちらかというと拓人に近いかなぁ。人のことをを分析しちゃう癖があるかも(・・;)でも、自分のことを少しでも良く見せようとする理香の気持ちも少し分かる。分かるからこそ、「この人、イタイわー」と思っちゃうのかもしれません。

 

拓人と理香は不器用で、自分を素直に表現するのが苦手。だから中々、最終面接まで行かない。私も中々最終まで進めなかったので、二人の気持ちが痛いほど分かる(T_T)

 

 

就活生のリアルな心情も印象的

 

「いつでもどこでも第一志望の顔しなきゃいけないのってつらいよな。そんなわけねえじゃん、てか面接官お前も就活のときそうだっただろ?ってなる」

 

いくらこちらから願い下げだったとしても、最終的に選ばれなかったということは、そこまで選ばれていたのに決定的に足りない何かがあったというふうに感じてしまう。ESや筆記試験で落ちるのと、面接で落ちるのとではダメージの種類が違う。決定的な理由があるはずなのに、それが何なのかわからないのだ。

 

 

本命じゃないけど内定がもらえなかった時のダメージは大きい。なぜ最終まで残ったのに、選ばれなかったのか。就活って小さな自分のプライドがズタズタに切り刻まれますよね…。

 

上記のような就活生のリアルな言葉、心情がたくさん書かれていて共感するところ多数。

 

 

まとめ

就活なんて10年くらい前のことですが、「何者」を読んだらあの頃のことを思い出してしまいました。

 

「何者」はミステリーではないのですが、伏線がきっちり張られています。そして登場人物5人の正体がラストで明かされていく面白さもあるので、ミステリーが好きな方も楽しめると思います( ^^ )

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

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読んだ後にタイトルの意味が分かった!|敗者の告白

前回に引き続き、今回もミステリーをご紹介します。

 

 

読んだのは、深木章子さんの「敗者の告白」。著者の方は東大卒の元弁護士!60代半ばで文壇デビューしたそうです。

 

そんな経験豊富な著者が綴った「敗者の告白」は、山梨の豪華な別荘で妻子が転落死をするという事件から始まります。容疑者は夫。

 

 

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亡くなる前に妻は一度だけ取材を受けたことのある雑誌の編集者に“自身の罪”を告白するとともに、「夫に殺される」という旨のメールを送っていました。それが決め手となり、夫は逮捕され起訴されます。

 

しかし、ある一通のメールが見つかったことにより状況は一変。その後にも別荘の隣人である溝口夫妻の証言などの関係者の証言により“妻の本性”が露わになる…というストーリー。

 

 


敗者の告白 (角川文庫) [ 深木 章子 ]

 

 

 

読みどころは?

 

 

この作品の面白いところは構成にあります。

メールや手紙、関係者の供述調書や証言だけで構成されています。語り手はおらず、何が真実で何が嘘なのか…もう登場人物全員が怪しく見えるんですよ!!

 

これは事故なのか、殺人なのか。殺人だとしたら、共犯者はいるのか?夫は本当に犯人なのか?等等、全てを怪しみながら読みました。

 

そして真相を知り、読了した後にタイトルの意味がやっと分かる。悲しい話ではありますが、エンタメとしては面白かったです。映像化したら面白そう。

 

 

初読みの作家さんでしたが、他の作品も読んでみたくなりました( ^^ )

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

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実際にありそうな設定にゾクゾク…。娘が転落死したのは事故なのか?それとも…|罪の余白

読んだ後に、イヤ〜な気持ちになる「イヤミス」は好きですか?

 

私は大好きです!!( ´ ▽ ` )

 

 

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昨年から芦沢央のイヤミスワールドにどっぷり浸かり、ハマってしまいました。

 

今回はそんな芦沢央のデビュー作「罪の余白」をレビューします。

 

 


罪の余白 (角川文庫) [ 芦沢 央 ]

 

 

 

学校で転落死した娘を、知ろうとする父が行き着いた驚愕の真実とは--

高校のベランダから転落した加奈の死を、父親の安藤は受け止められずにいた。娘はなぜ死んだのか。自分を責める日々を送る安藤の前に現れた、加奈のクラスメートの協力で、娘の悩みを知った安藤は。(「罪の余白」 芦沢 央[角川文庫] - KADOKAWAより引用)

 

 

 

芦沢央さんはどんでん返しミステリーのイメージがあり、本作もどんな結末を迎えるのかな?とワクワクしていたのですが、どんでん返し要素は少なめでした。それでも夢中で読んでしまいました!

 

 

 

「学校」という世界は狭くて閉鎖的。だからこそ…

 

娘の加奈は高校1年生。ミッション系の女子校に通っており、同じクラスには親友の咲と真帆がいます。

 

一見、仲のいい三人組のように見えるけど実際のところは当人たちしか分からない。

 

特に女子グループは陰険なところがありますよねぇ。本作を読んで中高時代のことを思い出しました。

 

特に真帆が「自分が学校を休んでいる間に悪口を言われて翌日から無視されるかもしれない」という不安も分かる…!私も自分のいない時に悪口を言われるのが怖くて、一人でトイレに行ったりできなかったなぁ…。今思うと「気にしすぎだよ!」と思うけど、当時の私にはそこにしか居場所がないわけで。

 

こういう学校特有の閉鎖的な環境での不安感が真帆を通してリアルに描かれています。

 

真帆はいわゆる高校デビューした女の子で、中学生時代はオタクグループにいました。中学も同じでクラスも一緒だった咲は、可愛くて優しくて頭も良く、クラスの人気者。スクールカーストの上位にいる女の子でした。

 

中学の頃に咲はあることをきっかけにクラスから孤立してしまいすが、咲は気にせず一人で堂々と行動していました。それを見て真帆は咲に憧れを抱くようになります。そして高校では見事、一緒のグループに。咲に嫌われたくないという一心で真帆は咲の言いなり状態。加奈が亡くなった後もそれは続きます。

 

もう真帆は咲の親友というよりは下僕という感じ。知らないうちにコントロールされている様子にゾッとしました。そして咲の二面性も怖すぎる…。

 

 

 

愛する子供を突然失った父親の心情を思うと胸が締め付けられる

 

 

交通事故などもそうですが、ある日突然大切な人の命が奪われたら…と思うと胸がキューっとなります。

 

娘の死の真相を知った父親はある策を練りますが、その展開にドキドキしながら読みました。途中で読むのをやめられなくて、後半は一気読み。

 

正解のない答えについて悶々としてしまいますが、無理に答えを出さなくても良いのかもしれません。

 

私も今、これを書きながら悶々としています。心が揺さぶられる小説でした。

 

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

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